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「お前のせいで土地神が消え、雨が降らなくなった。このままでは全滅だ。せめてもの罪滅ぼしに、雨を呼ぶ贄となれ」  思い思いの武器を手に取り、近隣の住民たちが屋敷に押しかけてきた。荒縄で両手を縛られ、乱暴に外に引きずり出される。このまま神社のあった場所で、雨乞いの儀式を始めるのだろう。  家は打ち壊され、家財道具は庭に投げ捨てられていた。よく手入れされていた庭は見る影もない。紫陽花も大手毬も銀梅花も酷いありさまだ。いっそどこぞに売り払えばその金で水を買えただろうに。  長年この土地を治めてきた立花家もこれで終わりだ。後継だった娘はふたりともいなくなり、当主である夫はつい先日死亡が確認された。前当主夫妻も既に亡くなっている。  立花の分家はあるものの、みな火の粉をかぶるまいと逃げ始めていた。神の怒りに触れたとある地方の一族は、結婚や養子縁組をして一族の戸籍から抜けるまで祟られ続けたと聞いているから、彼らは賢いと言える。 「さっさと歩け」  わざとなのだろう、時折、不規則に縄を引っ張られる。その度に地べたに転がる私を見て、彼らは口元をにやつかせていた。  私ごときの命で、雨を呼ぶことなどできるものか。それよりも早く立花家に代わる家をたて、新たな土地神を招くべきだ。  けれどそれを伝えてやる義理はない。祝言をあげたあの日から、私はこの土地を守りたいとはどうしても思えなかったのだから。
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