第二章 不釣り合い

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空が白んできた頃、ライブハウスはまるで雑魚寝ホテルのようになっていた。 これは中々に壮絶な光景だ。色んな所で人が倒れてる。 ステージではまだバンド演奏が続いていて、辺りを見渡したら、聞いていそうな人は殆ど居ない。 それでもPA席で照明や音響作業をしているアルバイトスタッフは頑張っていた。 さっきから何度も欠伸をくりかえしている。 私もそれを見ていたら眠くなって来た。 「有希ちゃん」 アッキーの声がして、振り返る。 ハッチを肩に担いだアッキーがヨロヨロとこっちに向かってくる。 「ハッチ、どうしたの?!」 「毎年捕まるんだよなぁ、ハッチ。絡み上戸のバンドマンに次から次へとさぁ、ほら、普段ハッチ、ガード固いから、年越しライブみたいな無礼講モードに皆んなお近づきになりたがるんだよ」 「なぁ〜るほど!通りであんまり見かけなかったはずだ。」 「ちょっと車に寝かせてくるわ」 「うん!な、なんか手伝う?」 「いや、大丈夫。有希ちゃん一人になるから、変なのに着いていっちゃダメだよ。」 「大丈夫だよ」 私は疲れもあってヒラヒラと手を振った。今から、どこの誰とも分からない人に着いていく体力は私には残っていない。 チカチカと光るステージで、弾き語りが始まった。 ヤバい…マジで寝ちゃいそう。ライブハウスの壁に持たれて目を閉じたら、私はどうやら器用に立ったまま眠っていたらしい。 気づいたら弾き語りは終わっていて、ようやくお開きのトークが始まった。 その頃には、アッキーが隣に立っていて、私に向かって「帰ろっか?」と微笑んだ。 車に乗り込み、シートベルトをしようとしたら、アッキーに止められる。 「有希ちゃん、眠くない?」 「ん〜、眠くない!は嘘だよね」 「ちょっと寝てから帰らない?」 「寝てから?」 「うん、俺も事故りたくないし、ちょっと…う〜ん…一時間くらいかな」 「良いね!」 私とアッキーは後部座席の荷物を潰さない程度にシートを倒した。 フロントガラスから見えるのは狭い路地の電線。そこにカラスが二羽。 私はそれを眺めてぼんやりしていたら、隣からフワッと上着をかけられた。 「アッキーが寒いよ」 「大丈夫、エンジンかけてるし。有希ちゃんの方が寒そうだから」 「…ありがとう」 「おやすみ」 「おやすみなさい」 何だか変な感じだった。 外は明るい。 電線にカラス。 おやすみの挨拶。 アッキーの香水の香り。 気づいたら、いつもより寝心地は悪いのに、私はゆっくり、眠っていた。
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