53人が本棚に入れています
本棚に追加
砂利の音で目が覚めた。
タイヤに絡む独特な家の前に着いた時の不快な感じ。
「有希ちゃん、着いたよ」
「ぁ…うん!ありがとう!ごめん!走り出したのも知らなかった」
「ボーカルは体が楽器だから。疲れたでしょ。ゆっくり休んで」
私はハンドルに頭を寝かし、こっちを見るアッキーと別れるのが嫌だと思った。
グッと唇を噛んだ。
「ぁ…アッキーは帰ったら寝る?」
「ん〜、どうかな?チビ達が起きてるだろうから、初詣とか連れて行くかも」
そのセリフで、私は噛み締めていた唇から一気に力が抜けた。
「そっか…頑張んなきゃね!パパ!」
私に魔法はかかっていない。ちゃんと、悪の巣窟に送り届けられたし、アッキーとほぼまる1日一緒に居たからといって、まだ一緒に居るなんて叶うわけじゃない。別れたくないという思いは無理もない。優しくされ、怒鳴り声もせず、楽しい空間を共にしていたのだから。ただそれだけの事で、危うく迷惑をかけるところだった。
車から降りて手をふる。
アッキーの車は遠く小さくなる。
私は一気に無気力になる。肩に鉛を担いだように体が重い。
玄関に手を掛け息を吸う。
さぁ、覚悟なさい。
ここが私の居場所なのだから。
家の中は静かだった。父はパチンコに出かけたようだ。恵理の部屋の扉を開く。
ベッドで寝転んでいる恵理はゆっくり目だけで私を見上げ、「おかえり」と呟いた。
「ただいま…何もなかった?大丈夫?」
「あぁ…うん、別に何にもなかったよ。珍しくね」
家だというのに、私たちはいつも緊張していた。
私が居ないこの家で過ごす事は、きっと相当に精神をすり減らす。
分かっていても、やめられない。
恵理、ごめんね、と思いながら、私は部屋を出た。
最初のコメントを投稿しよう!