第二章 不釣り合い

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「で?何もなかったの?」 涼子はたこ焼きを口に入れ呟いた。 一月二日、私達は近所の神社に初詣に来ていた。 昨日のライブハウス横の大きく有名な神社と違って、片田舎の、周りは田んぼしかないような場所にある神社は出店が三軒しか出ていない。 そこで買ったたこ焼きを頬張りながら、涼子は年越しライブの話を聞き、よく分からない一言を呟いた。 「何も?なかったよ?ライブは成功!ハッチは飲みつぶれちゃって、アンちゃんとエルさんは早いうちに消えた気がする…アッキーだけだよ、側に居てくれたの。」 「そんな事聞いてない」 「聞いたじゃん」 涼子ものりこも流石に年跨ぎでのライブ参戦は親から許可が出なかった。 だから、しつこく聞いてくるのは分かるが、どうも話が噛み合わない。 「私が聞いてるのはアッキーさんと何もなかったのかって事よ!相変わらず鈍いなぁっ!」 「アッキーと?なんで?」 「何でって!さっき見せてくれた縁結びのお守りとかさ!車で一緒に寝るとかさっ!何かあるじゃん!」 私は回想するように空を見上げる。ちょうどカラスが二羽飛んでいて、苦笑いした。 「ないない!アッキー、保護者だもん」 「保護者は娘に縁結びのお守り買うかね?」 「買うんじゃない?…まぁ…うちの親は死んでも買わないけど」 そう言ってダルそうな顔を作ってみせる。 涼子は私のその顔を真似てから次のたこ焼きを頬張った。 境内の隅に座っていた私たちは、まるで少女のように足をぷらぷらさせる。 「にしても、こんな田舎から音楽始めて、良くあんな集団捕まえられたよね!」 涼子はよくやったよ〜と爪楊枝を指揮棒のように小さく振った。 「だよね…ラッキーだったよ。昨日の年越しライブでも、結構お客さん増えたと思うんだ」 嬉しそうに話す私を見て、涼子はうんうんと頷きながら、「私も行きたかったなぁ〜」とぼやいた。 田んぼに舞い降りたカラスが何かを一生懸命に啄んでいる。 あまりに昨日とギャップのある世界観に、私は苦笑いしながら涼子の背中をポンポン叩いた。
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