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プロローグ
淡い桜の
朝起きると、彼はすり足でフローリングを歩く。幼稚で子供じみた動きは40歳を回った成人男性のそれではなく、私の目には、あまりにも滑稽に映る。それが自分の夫であると思うと、深いため息が漏れた。
まだぼんやりした意識の中、義父母に買って貰った冷蔵庫の扉を開ける。以前は片開きのものを使っていたのだが、今は観音開き仕様になり、新しくなったはずなのに大変使い勝手が悪かった。奥のものを取り出すにもいちいち両方の扉を開かなければならないし、開いた片方の扉がまだ眠たい肩に戻ってぶつかってくるのだ。
嫌だな…と心の隅の引き出しに言葉をしまう。夫はトイレから戻るとまたすぐ布団に入って、起きているくせに子供のように寝言を言うフリをしたりする。構って欲しいのがあからさまで気持ち悪い。私はそれを全力で無視して、目を閉じて台所の狭いカウンターに手をついた。
娘は高校二年生になる。息子は中学一年で、二人とも反抗期真っ只中にあり、異性なせいもあるのか、顔を合わせては喧嘩ばかりだ。
私達夫婦も、今だに喧嘩ばかりだし、家庭環境が良くないせいもあるんだろうな、などと卵を割りながら苦笑いが溢れた。
お弁当は一つ。
麦茶と食パン。
緑茶とご飯と卵焼き。
紅茶と食パン。
コーヒーとご飯と卵焼き。
私たちは家族のフリをしているけれど、てんでばらばらで愛がない。
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