大和川決壊未遂

2/5
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
会社から出た後、近鉄で帰ろうと思えば帰れるのだがおれはそうせず、このホテルに直行した。奈良県のO駅近くの大和川の堤防すぐそばにあるおれの家をニュースが一瞬、映した。川水がすぐそばまで迫っている。 「うはははは。いいぞ! 大和川よ、決壊しろ。おれの家を、あいつごと流してまえ。うははははははは、はは!」 毎年大雨がふれば決壊する決壊すると言われながら何事もなく過ごしてきた、やる気のない大和川よ。今度こそきっちり決壊し、おれの家を妻ごと、暗い思い出ごと、流し去ってくれ。 この中古住宅を買ったのは20年前。川のそばというのが不安だったが、破格の値段だったことと、不動産屋の 「昭和57年の大洪水からの教訓を踏まえて、しっかりした堤防が整備されましたし、大丈夫ですよ~。実はもうお一方、下見をされたお客様がいらっしゃるんですよ~。お決めになられるなら、今ですよ~」 との言葉に負けたのだ。もっとも、火災保険の水災補償には入っておいてくださいね~としつこく念押しされたので、その通りにしたのだが。こうしておれは20代で持てた夢のマイホームに、妻と共に入居した。本当にあほみたいに安かったので、わずか15年でローン完済できたのだった。 社会人2年目の秋、学生時代から付き合っていた妻と結婚した。妻は子供をほしがったが授からず、長年不妊治療を続けていた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!