第1話

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「お前は何故王の命を狙う?」  王が絶対のこの国で、その命を奪いたいと口にするのは、それだけで死に値する。理由など関係ない。ヒカリがどれだけ王が憎くて、どんな仕打ちを受けたのか。宮殿内の人間たちには、そんなものは取るに足らない事柄でしかない。  バドルの質問に答えるかどうか迷ったが、今のヒカリにはこの男が目的遂行の唯一のよすがだった。 「一月前、国境近くの砂漠であった事件を知ってる?」  言いながら、胸の底から苦いものが込み上げてきて、ヒカリは眉根を寄せた。 「……いや」  このレムーダの住民は元来、殆どが遊牧民だった。のちに豊富な資源を活用する術を見出して著しい発展を遂げ、住人達の生業も様変わりした。しかし先進国との交流を盛んにし、近代化が進む近隣国家に比べれば、昔のままの生活様式を保っている部分が多い。 「俺の父は砂漠で牧畜業をしてた」  ヒカリの住まいも砂漠に程近い。レムーダの中では最も貧困層が暮らす地域だ。日干しレンガの質素な住居で、ヒカリは父と二人で暮らしていた。
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