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この国の義務教育期間である小学校の六年間が終わろうとしていた時、卒業後は自分も父の仕事を手伝うことになるものだと思っていた。しかし父は、ヒカリに進学することを勧めた。義務教育までは国が学費を負担してくれるが、それより先は有償だ。幼いながらに家庭の経済状況が逼迫していることは重々承知していた。けれどもっと学びたいという気持ちは抑えきれなかった。
「色々なことを学んで、たくさんのものを見て、自分の行きたい道を進みなさい」
父はそう言ってヒカリを自由にさせてくれた。ヒカリは今年大学一年になった。語学を学び、将来はそれを生かした仕事に就いて、父に楽をさせたいと考えていた。
それはその矢先の出来事だった。
「ある夜、突然牧場に兵隊が襲ってきたんだ」
ヒカリはその現場にいなかった。報せを受けて駆けつけた牧場で目にしたのは、焼かれた屋舎と、息絶えた父の姿だった。
「隣国のカイサルがレムーダの侵略を狙ってるって噂は知ってる?」
体の内側で渦巻く感情を押し込めて、ヒカリは言葉を続けた。
「ああ。しかし噂でしかない。それが事実であるという根拠はどこにもない。現に両国は現状関わりは薄いが友好関係にあると言える」
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