第1話

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 バドルが属するズィップの拠点はカイサルの筈だから、バドルの方がより正確にその話を知っているのかもしれない。だけどヒカリにとっては、それが真実なのか噂話でしかないのかはどうでもよかった。どちらにせよ父が命を奪われた事実は変わらない。 「父は……あの辺り一帯の牧場は、隣国と通じてるって、報酬目当てに情報を流してるって……謂れない罪を突きつけられた」  付近一帯の牧場はすべて焼かれていた。侵略拠点にされる恐れがあると火をつけられたのだ。 「そんなこと、父さんがしてる訳ないのに」  父は濡れ衣だと兵士に言い募った。それでも兵士は「王の命令だ」と屋舎を破壊し、無慈悲に火を放った。 「必死に抵抗した父さんに、兵士は発砲した。何も……何も悪いことなんてしてないのに」  その一部始終をヒカリに伝えた父の牧場仲間も、体にひどい火傷を負っていた。 「どうして、そんなひどいことができるんだよ。ちゃんと調べもしないであんな……、赦されていい訳がない」  ヒカリは周りの大人に必死に訴えた。父は何もしていないと、きちんとした取調べもないまま暴挙に出た王の命令はおかしいと。 「でも、誰も話を聞いてくれなかった」
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