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「大学生だと言ったか? 年の割には随分小柄だ。肉付きも悪い。ろくな食事をしていないのだろう」
呆然としたままのヒカリには構わず、バドルは感触を確かめるようにヒカリの腕を軽くなぞった。
「唯一の肉親を喪ってさぞショックだろう。だからお前は今、冷静な判断ができなくなっている。一旦頭を空っぽにしろ。しっかり食事をとって心を休めろ。そこから見えてくるものもあるだろう」
バドルはそう言いおいて踵を返した。
「さっさと家に帰れ。見回りが来るかもしれん」
自分の役目は終わったとばかりに、バドルはそのまますたすたと歩いて行った。じっと背中を見つめていると、急激に怒りがこみ上げてきた。
「……っ!」
ヒカリはその場に屈むと、小石を拾って遠ざかる背中めがけて思い切り投げつけた。それは男の右肩に命中する。
「なんだ」
怒気を含んだ声を発して、バドルが振り向く。しかし眉間に刻まれていた皺は、ヒカリと目が合うと瞬時に消えた。
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