第1話

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「お前の行動がただの死に急ぎではなく、死んだ父親の無念を晴らしたいのだとういなら、俺の言葉に従え」  ヒカリを見下ろす視線は真剣そのものだ。その言葉には不思議と逆らえない響きがあった。  バドルがどういうつもりなのかもわからない。犯罪者であるこの男のことを安易に信用してはいけない。けれど「嫌だ」と口にすることが憚られた。自分は、バドルを恐れているのかもしれない。返事の代わりに、ヒカリは喉を鳴らした。  わかるな、と念押しされて、ヒカリは少し迷ったあと男の雰囲気に気圧されるように頷いた。無鉄砲に王宮に突っ込む以外、己に術がないのも事実だった。 「よし、いい子だ」  バドルの目元がふっと和らぐ。 「子ども扱いするな」  頭を撫でられて、ヒカリがその手を払おうとした時、代わりに派手なくしゃみが飛び出た。 「大丈夫か?」  笑いを含んだバドルの声が訊ねる。ヒカリは王宮への侵入時に池でずぶ濡れになったままだった。緊張から麻痺していた冷たさが、今になって襲ってくる。この地域は昼と夜の温度差が激しい。日中は四十度を越すことが当たり前なのに、日が沈んだ今は二十度を下回っている。 「早く帰って着替えろ」  命令口調なのに、バドルの声は冷たくは聞こえなかった。 「三日後、今と同じ時刻にここに来い。作戦を立てる。誰にも見つからぬようにな」  ヒカリは無言でこくりと頷いた。 「風邪をひくなよ」  バドルはその言葉を残して、ヒカリに背を向け去っていった。
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