第2話

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第2話

 バドルの背を見送ったあと、ヒカリも家路につく。この森からヒカリの自宅までは、歩いて四時間近く掛かってしまう。  砂漠に程近い辺境の村。貧しいが近隣の住民同士が助け合い、活気にあふれた土地だった。ひと月前までは。ヒカリの父が命を落としたあの事件以降、村は昼夜問わず静まり返っている。事件を切っ掛けに引っ越した住人もいる所為か人の出入りも少ない。  このまま寂れて、誰もいなくなってしまえばいい。貧相な自宅の扉を閉め、ヒカリは簡素なベッドの上に体を投げ出した。  ヒカリの父親は、その温厚な人柄から村人たちに慕われる存在だった。誰に対しても、どんな時でも温かで、それで自分が損することを厭わない人だった。ヒカリにとって自慢の父親だった。それなのに、父が無残に殺された時、村人の反応はどうだ。王の横暴を糾弾するべきだというヒカリの訴えに、誰一人として耳を貸さない。賢明な王だから何か考えがあってのことだろうと、父の死から目を背けた。父を疑う者すらいることが信じられなかった。何十年も共に暮らしてきた父よりも、顔も見たことがない賢明な王とやらを信じるのだ。
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