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ボロボロの狭い家でも、質素な食事でも、ヒカリは不満に感じたことなどなかった。そこに父がいる。それだけでヒカリは幸せだったのに。
滅べばいいこんな村。こんな国。
恨みの言葉を頭の中で繰り返しているうちに、ヒカリは眠りに落ちていた。明け方、微かな物音で目を覚ます。誰かが扉を叩いたような気がした。起き抜けの体を起こし、扉へ向かう。僅かに扉を開いて外の様子を窺った。しかしそこには誰の気配もない。ヒカリはそれを確認して扉を大きく開いた。やはり誰の姿も見えなかった。気の所為かと扉を閉じ掛けて、その動きを止めた。
「……なんだ、これ」
扉の脇、家の壁に添うように見慣れない木箱が放置されていた。不審に思いながら、それを持ち上げて部屋に戻る。恐るおそる中身を確認すると、中には果物や紙に包まれたパンなどの食料品が入っていた。
ヒカリは果実を一つ手に取った。父が亡くなって以来、まともに食事をとっていなかった。手の中の艶やかな果実を見つめていると、口の中に唾液が溢れてくる。
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