第2話

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「……美味しい」  思わずといったように呟いたヒカリに、バドルはふっと柔らかい息を吐いた。このレムーダでコーヒーは特別なものだ。人を持て成す時や語らう時は必ず用意する。嗜むというよりはマナーに近く、貧しいヒカリの家にも常備されていた。しかし今飲んでいるそれは、今まで飲んだことのあるコーヒーのどれとも比べものにならないくらい香り高く味わい深い。  膝の上の包みにも躊躇いながら手を伸ばした。しばらく迷うように凝視したのち、ゆっくりと紙をはぐる。ずっしりと重みのあるそれは、肉と野菜がぎっしり詰まったラップサンドだった。見るからに美味しそうな塊に、恐るおそるかじりつく。旨味が口いっぱいに広がって頬の筋肉が痛む程だった。  温かいコーヒーと美味しい食事。たったそれだけのことに涙が滲んでくるのがおかしかった。この一月、ずっと張り詰めていたものが少しだけ弛んだのかもしれない。バドルは正面に視線を移して見ない振りをしてくれた。ヒカリが食べ終えるまでずっと黙っていた。
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