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「あんたは……あの、バドルは飲まないの?」
名前を呼ぶのが少し照れ臭かった。飲み干したカップを差し出すと、バドルはそれを受け取る。
「そうだな、俺も飲もう」
ヒカリが返却したカップに、ポットの残りを注ぐ。しかしバドルはしばらく注いだコーヒーをじっと見つめていた。やがて顔を覆っていた薄布を取り去る。
ヒカリは思わず息を呑んだ。初めて見るバドルの横顔があまりに美しかったからだ。高く形のよい鼻筋、無駄な肉が削がれた頬と鋭利な顎のライン。彫刻像のような計算された美しさと、精悍さに溢れている。
「どうかしたか?」
「……なんでもない」
さっきまで自分が使っていたカップに、形のいいバドルの唇が触れることに羞恥が湧いて、ヒカリは焦ったように視線を逸らせた。
「そういえば、お前の名を知らない」
火照った顔を誤魔化すように、手のひらでごしごしと頬を擦っていると、バドルが唐突に言い出した。ヒカリの体が少し強ばる。自分の名前を人に教えることが、ヒカリは苦手だった。
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