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「呼ぶ時に『お前』では味気ないだろう」
それでもヒカリはなかなか口を開かなかった。今までの人生で、人に名乗っていい思いをしたことがないからだ。
「……ヒカリ」
嫌々伝えると、バドルは不思議そうな顔をした。
「変わった名前だな」
バドルの反応はヒカリの予想の範囲内だった。ヒカリの母はこの国の出身ではない。名前は母の母国語からつけられた。
「もしかして日本語か?」
バドルの問いに、ヒカリは目を見開いた。その表情のまま、こくこくと首を振る。
「バドルは日本語がわかるの?」
「ああ、少しだけな。実際に行ったこともある」
「本当に!?」
勢いよく食いつくヒカリにバドルは苦笑をこぼした。
「知人の仕事を手伝って二度程な」
「どんなところだった?」
「そうだな……。いいところだった。日本にはこの国と違って、はっきりと四季がある。俺が行ったのは春と冬だ」
「雪は? 雪は降ってた?」
興奮状態のヒカリに、バドルは「少し落ち着け」とその背を軽く叩いた。
「雪は少しだが降っていたな」
レムーダでは雨さえ殆ど降ることがない。国民たちは雪に対して憧れのような感情を少なからず持っていた。
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