第2話

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「それよりも俺は春に目にした桜に心を打たれた。ピンクの花びらが風に舞う様はこの世のものとは思えぬ程に美しかった」  バドルの言葉を一語一句逃さないというように、ヒカリは真剣な顔で頷いていた。 「珍しい瞳の色をしていると思ったが、そうか。ヒカリには日本の血が流れているんだな」 「……うん。母さんが日本人なんだ」  フリーライターだった母は、取材でレムーダを訪れた際、父と恋に落ちてこの国に移住した。ヒカリが小学生に上がってすぐに、病気で他界してしまったが、健在だった頃にはヒカリにたくさんの話を聞かせてくれた。ヒカリが大の読書好きなのは母の影響だ。  近隣国に比べて随分閉鎖的なこの国では、外国人の姿はそう多くない。幼いヒカリがそれに気付くことはなかったが、母はきっとこの国で生活するのに随分と苦労した筈だった。今のヒカリにはそれがわかる。けれどヒカリの思い出の中の母は、いつも笑顔であった。  明るい母と優しい父。ヒカリの大切な家族は、もう誰もこの世にはいない。それを思うと、辛くて、悲しくて、寂しかった。
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