151人が本棚に入れています
本棚に追加
/95ページ
仕方なく自宅の前まで戻り、木箱の前で屈む。蓋を開けると、中には果物やパンだけでなく、チーズやハムが入っていた。この辺りではまず手に入らない高級品だった。
「……一体、誰なんだろう」
誰もいないのを承知で呟いてみる。もちろん返事もなければ答えもわからない。
『しっかり食事をとって心を休めろ。そこから見えてくるものもあるだろう』
またバドルの言葉を思い出す。食べてみようか。本当に、そこから見えてくるものがあるのかもしれない。そう思った。
「おい、ヒカリ」
その時、突如背後から声を掛けられ、ヒカリは飛び上がる。振り向くとそこには近所に住むサッタールが立っていた。この村の警備隊長を務める四十代の大柄な男で、たくわえた髭も相まって熊を彷彿させる。
「その食べ物はどうしたんだ」
ヒカリ越しに木箱を覗き込んだサッタールは威圧的に訊ねた。
「知らない。誰かが勝手に置いていった」
「そんな都合のいい話がある訳ないだろう!」
大声で怒鳴られ、反射的にヒカリの肩が跳ねる。
最初のコメントを投稿しよう!