第2話

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 仕方なく自宅の前まで戻り、木箱の前で屈む。蓋を開けると、中には果物やパンだけでなく、チーズやハムが入っていた。この辺りではまず手に入らない高級品だった。 「……一体、誰なんだろう」  誰もいないのを承知で呟いてみる。もちろん返事もなければ答えもわからない。 『しっかり食事をとって心を休めろ。そこから見えてくるものもあるだろう』  またバドルの言葉を思い出す。食べてみようか。本当に、そこから見えてくるものがあるのかもしれない。そう思った。 「おい、ヒカリ」  その時、突如背後から声を掛けられ、ヒカリは飛び上がる。振り向くとそこには近所に住むサッタールが立っていた。この村の警備隊長を務める四十代の大柄な男で、たくわえた髭も相まって熊を彷彿させる。 「その食べ物はどうしたんだ」  ヒカリ越しに木箱を覗き込んだサッタールは威圧的に訊ねた。 「知らない。誰かが勝手に置いていった」 「そんな都合のいい話がある訳ないだろう!」  大声で怒鳴られ、反射的にヒカリの肩が跳ねる。
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