第2話

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「お前が夜中にこそこそ村を出入りする姿が目撃されているんだ。まさか、どこかから盗んできたのか!」 「違うっ、知らないって言ってるだろ!」  ヒカリは首を振り必死に訴えた。しかしサッタールはヒカリを見下ろしたまま、吐き捨てるように言った。 「まったく。父親が父親なら、息子も息子だな」  そのセリフに、ヒカリは鋭く息を吸い込んだ。  何も、言葉にできなかった。怒り、憎しみ、悲しみ。どの言葉を用いても、この感情を表すことなんてできない。サッタールを睨みつけ、思い切り木箱を蹴っ飛ばすと、ヒカリは自宅に入った。 「ちっ、しょっぴかないだけありがたく思え。盗品は回収していくからな」  扉越しに男の声がした。 「くそっ、ちくしょ……ちくしょうっ!」  ヒカリは何もしていない。父だってそうだ。それなのにどうして、あんな言葉を言われなければならないのか。  目に付くものすべてを破壊したかった。皿を投げ、椅子を叩きつけても衝動は収まらない。壁を何度も殴りつけても怒りは込み上げるばかりで、やがて悔しさのあまり涙があふれた。 「……ぅ、っ、く……父、さん……っ」  早くこの感情の渦から解放されたい。父の恨みを晴らして……ヒカリも父のもとへと行くのだ。それがヒカリに残された唯一の目的。それ以外は何もない。誰も信じない。信じてはいけない。  シーツに顔を埋め、ヒカリは歯を食いしばって嗚咽を堪えた。
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