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咄嗟にそう思った自分に、ヒカリは衝撃を受けた。
自分はどこまで愚かなのだろう。同じ土地で暮らし、長きに渡って助け合ってきた相手ですら、己の為に簡単に人を切り捨てる。誰しも自分が可愛いのだ。それなのにどうしてこの男を信用できるというのか。会って間もないばかりが、犯罪組織の人間だ。
「それではまた三日後だ」
自分の思考に困惑しながら、ヒカリはその言葉にどうにか頷く。
「ヒカリ、これを持っていけ」
バドルはヒカリに麻袋を持たせる。中には食料とおぼしき紙包みが入っていた。
「大したものではないが、ちゃんと食え。これ以上痩せこけてしまっては、計画実行どころか、自宅からここまでの道すら歩けなくなってしまうぞ」
ヒカリは穴のあく程バドルを見つめた。凝視するヒカリに背を向け、バドルは去っていった。
バドルがヒカリの計画に協力するのは、『責任』からだ。ヒカリの体調を気に掛けるのは計画遂行の妨げにならないようにする為だ。けれどそんなものはきっと口実だ。本当はバドルがヒカリに協力する義務はない。ヒカリの八つ当たりに便乗して、バドルは自分に関わってきた。恐らくは暗殺を手伝う為ではなく、止める為に。
それが真実かはわからない。だけどヒカリはもう誤魔化せなかった。真相がどうであれヒカリ自身が、それが事実だと信じたいのだ。バドルが優しい人間だと。信用に足る存在だということを。
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