第1話

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 男が再び口を開きかけた時、ここから遠くはない場所から人の話し声がした。ヒカリは思わず目の前の男と顔を見合わせた。男はしばらくの間近付いてくる人の気配に意識を傾け、そして唐突にヒカリの腕を掴んで走り出した。 「ちょ……ちょっと、何するんだよ!」 「静かにしろ。捕まって牢屋にブチ込まれたいのか?」  鋭い声にヒカリは口を噤む。それからは無言で自分の手を引く男に従った。男は慎重に辺りの様子を窺いながら、迷うことなく進む。そうして辿り着いたのは、ヒカリが侵入したのと似たような塀だった。 「この場所なら外側の守りもいない筈だ」  男は腰から下げていた布袋から縄を取り出す。それはヒカリが侵入に用いたような先端を輪に結んだだけの頼りないものではなく、特殊な金具が装着されていた。慣れた手つきでそれを引っ掛けると、男は先にヒカリへと縄を手渡した。上手く上れずにもたついていると、男は自分の肩を足場にさせてヒカリの手助けをする。どうにか外へと脱出したヒカリに続いて、男は軽々と壁を越えた。 「行くぞ、こっちだ」  男は再びヒカリの手を掴み、より深い闇へと走り出した。
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