第3話

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第3話

 バドルの本心を知った夜以降、ヒカリは王のことも復讐のことも努めて考えないようにした。ふと脳裏をよぎって行き場のない怒りや不安に駆られることもあったが、そんな時はバドルを思い出すようにした。  暗殺遂行の助言、指南という名目がなくなってからも、ヒカリはあの森に出向きバドルと逢瀬を重ねた。頻度も前と変わらない。本当のことを言えばヒカリは毎日でもバドルの顔を見たかったけれど、バドルが別れ際に「また三日後にな」と言うものだから、ただそれに従った。もっと会いたいなんて口にするのは恥ずかしかったし、わがままを言ってバドルを困らせたくなかった。  バドルは会う度に今のヒカリの生活を心配した。食生活の悲惨さ、父が亡くなって以来、一度も学校へ行っていなことなどを聞くと、バドルは険しい顔をしていた。  バドルは自身のことを殆ど語らない。ヒカリから訊ねれば答えてくれるものの、どこか核心を得ない。そして時折、ヒカリに何か言いたそうな表情をすることがあった。それでも結局いつも口に出すことはせず、言葉の代わりにヒカリを抱き締めた。だけど決してそれ以上は触れてこない。抱擁以上の接触があったのはあの夜が最初で最後だった。抱き締めてくるバドルの腕はまるで縋るようで、ヒカリは男の背に手を回して力いっぱい抱き返す。バドルが抱えているものを知りたいと思う。バドルが自分を支えて慰めてくれたように、ヒカリもバドルの抱えているものごと抱き留めたいと願う。それでもヒカリは無理に聞き出そうとはしなかった。いつかバドルが自主的に話してくれるのを待つつもりだ。
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