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◇ ◇ ◇ ◇
ヒカリが暮らすこの国、【レムーダ】は砂の国だ。国土の半分が砂漠地帯だが、油田や天然ガスの鉱脈、あらゆる植物など、資源が豊富な土地だ。
男が足を止めたのは、二人が脱出した宮殿から一キロ近く離れたナツメヤシの森の中だった。小さな湖のほとりで男はヒカリの手を離した。
「あんたは一体何者なんだ」
ヒカリはさりげなく男から距離を取った。こうして自分を助けてくれたとはいえ、素性もわからない相手には変わりない。
「それはこっちのセリフだな。あんなところで何をしていた? 同業者にしては随分手際が悪そうだが」
「同業者? そういえばさっきも仲間とか言ってたけど……」
男を訝しげに見回して、警戒心を深くする。そんなヒカリの態度に、男はやれやれ、という風に短く息を吐いた。
「なんだ、王宮のお宝目当てじゃないのか?」
「違う」
男の問いにヒカリは即座に否定を返す。しかしそれ以上は頑なに口を閉ざした。
不意に強い風が吹いて木々がざわめいた。水面に波紋が広がり、雲の途切れ目から姿を現した月が二人を照らす。
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