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第4話
「命があるだけありがたく思え」
鉄格子の向こう側の兵士はそんな言葉を残して去っていった。
ヒカリは兵士に引き立てられる最中、深い悲しみと激しい怒りのまま、バドルに対して「殺してやる」とまで口走った。王が最上で絶対的な存在であるこの国では、それだけで即刻斬られていてもおかしくなかった。しかしそれを止めたのはバドル本人だった、いや、バドルという男はいない。レムーダ国の第五十二代国王、カミール・イッザ・ヒシャーム。それが男の本来の名だった。
絶望の淵から立ち上がらせてくれた希望が、砕けて霧散していく。優しい手も、柔らかな声も。温かい気持ちも。
ヒカリが連行され、押し込まれたのは王宮の地下にある牢獄だった。部屋全体が薄暗く、かび臭く湿っている。しかし、そんなことは今のヒカリにとってどうでもよかった。
ヒカリが牢に入れられて一時間程が経過した頃、人の話し声と、石の階段を歩く硬質な音が響いた。
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