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「聞いてくれ、ヒカリ……」
「あんたの話なんて聞きたくない。顔も見たくない」
目の前の顔が、はっきりと傷付いた表情をしたのがわかったが、ヒカリは言葉を止めなかった。
「ねえ、早く殺してよ。俺は王の命を狙おうとした大罪人だ」
「ヒカリ」
王の顔が苦しそうに歪む。ヒカリは音がする程に強く歯を食い縛った。
「早く殺せよ! さもなきゃ、俺があんたを殺してやる!」
身を乗り出したヒカリの背後で、縛られた両手がぎちりと音を立てた。王は興奮状態のヒカリを落ち着かせようと手を伸ばす。しかしそれはまったくの逆効果だった。
「また来る」
痛みに耐えるように目を閉じたあと、王は静かに部屋を出て行った。
一人になった室内には、ヒカリの荒い呼吸だけが聞こえていた。背後のベッドに体を倒し、小さく身を縮める。
「……っ、く、ぅ」
呻き声を上げながらヒカリは涙を流した。襲い掛かる現状に気が狂ってしまいそうだった。
父の仇に、それと気付かずに頼って、惹かれていた自分が愚かで、消し去ってしまいたかった。それ以上に、すべてを知って尚、男が傷付いた表情を見せると胸が軋んで仕方ない己が、ヒカリは赦せなかった。
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