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王は夜になるとヒカリがいる部屋に現れた。
ヒカリにとって王は透明人間だった。話し掛けられても何も答えなかった。心を閉ざして見えていない振りをした。
「何かいるものはあるか?」
王はテーブルの上、手付かずの果物と、積まれたまま動かされた形跡のない本をちらりと見遣った。
「食事をとらないそうだな」
王はベッドに近付き、その端に腰を下ろす。そこに横たわるヒカリにそっと顔を寄せた。
「これ以上は体に障る。少しでいいから食べてくれ」
頼む、と懇願する男をヒカリは虚ろな瞳で見つめた。
「俺が飢えて死のうが、あんたにはどうだっていいだろ?」
長い時間喋っていなかったヒカリの声は掠れていた。その渇いた音に、王は悲痛な表情を浮かべる。
「ヒカリ……、私はお前をひどく傷付けてしまった。正体を偽り欺いていたのは事実だ。だが信じて欲しいのは、私がお前に伝えた気持ちに嘘はない」
「そうやってまた甘い言葉で俺を騙して、何が目的?」
傷つけたのは自分なのに、悲しそうに揺れる青い瞳を見たくなくて、ヒカリは瞼を閉じた。
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