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「俺の名は……バドルだ」
空を見上げてから男がぽつりと呟いた。
「【ズィップ】の一味だと言えばわかるか?」
「っ! 泥棒……」
驚愕に目を開き、呆然と呟いたヒカリに、バドルは苦笑した。
「盗賊、と呼んでくれた方が聞こえがいいような気がするんだが、まあ同じか」
この国でその名を知らない者はいない。『狼』の名前を持つ一団は、レムーダの隣国【カイサル】に潜伏する盗賊団だ。犯罪組織と形容した方がいいのかもしれない。剣術や武道に長け、銃火器の扱いにも慣れた荒くれ者の集まり。『どこぞの富豪が盗みに入られた』、『遠くの町の行商が襲撃を受けた』、『反政府組織の依頼でテロを起こした』。そんな話を風の噂で聞いたことしかない。
もちろんヒカリは本物を見るのは初めてだった。ひどく驚いたけれど、不思議とバドルを怖いとは思わなかった。月明かりの下浮かび上がる男の瞳は、恐ろしい悪事に手を染めているようにはとても見えない。
「別に一般人を取って食いはしない」
バドルはおどけたようにそう付け加えた。
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