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「それじゃああなたは、自分の唯一の肉親を殺した相手を赦せますか?」
するとハーシウはヒカリを凝視し、やがて複雑な顔で黙り込んでしまった。
それは一瞬、ヒカリの問いを否定できない為のものかと思ったが、別の何かを孕んでいるようにも見えた。どうしてか段々自分が悪いことを訊ねてしまったような気分になって、ヒカリは落ち着かなくなる。
「あの、どうして王は、シャラフ様に問い質さないんですか?」
話題を変えたいという思いもあり、先程の話で気になったことをヒカリは口にした。
「だって、自分を殺そうとしたって知ってるんですよね?」
いくら王族であったとしても、国王の命を奪おうとしたなら、大きな罪に問われる筈だ。
「お前も知っていると思うが、この国は血縁関係に重きを置いている。故に兄弟の仲違いなど王家の威信に関わってくる」
ハーシウは厳しい顔つきで説明した。
「それに陛下は、亡きお父上のお言葉を固く守ろうとしておられるのだ」
亡き人を偲ぶように、ハーシウは目を眇めた。
「兄弟お二人の絆は、この国の民の希望であり誇りだ。しかし、亡くなった先王は民以上に二人の王子を誇りに思っていらした」
兄弟で力を合わせてこの土地と民を守っていってくれ。先王の今際の言葉を、ハーシウは重々しく声に出した。
「そして陛下は、心のどこかでシャラフ様を信じていらっしゃるのかもしれない。陛下ご自身が真摯にお父上の言葉を守ることで、己の過ちに気付いて改心してくださることを」
本当にお優しい方なのだ。最後にハーシウはしみじみとそう呟いた。
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