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「私は自分が怖い」
王の声が確かに震えて、ヒカリはそっと瞼を開いた。
「私はこの国の王だ。国土と民を守る義務がある。王となった時、何を犠牲にしてもそれを優先すると強く決意した。私は、この命はレムーダのものだ」
まるで己に言い聞かせるように、力強く声に出す。
「しかし、ヒカリといるとその決心が崩れてしまいそうになるのだ」
王は緩慢な動作でヒカリの手を取ると、その手を拘束していた縄を解いた。突然のことに戸惑うヒカリの手を握る。
「相手がヒカリなら、たとえその手にナイフが握られていようとも、私はその体を抱き締める。たとえその唇に毒を含んでいたとしても、私は口づけたいと思ってしまう」
青い瞳に焦がされそうだった。
「私は一生、心から人を愛することなどないと思っていた。それなのにヒカリを見つめているだけで、己の内から愛しさが溢れて止まらないのだ」
この言葉を聞いてはならないと思った。王はヒカリを苦しめたいのだ。悲しみや悔しさにどこまでも沈んでいくヒカリの手を取り、真逆の感情で引っ張り上げ、ヒカリの胸を引き裂こうとしている。
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