第4話

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 ヒカリは唐突にベッドから飛び降りると、王の体を押し倒し、馬乗りになった。  父を奪った男。自分を騙して裏切った男。憎くて堪らない男。その首筋に手を掛け、体重ごと力を込めた。  王は目を見開き、ヒカリを凝視した。しかし次の瞬間悲しそうに笑って、抵抗せずに目を閉じた。 「……っ、ふ、ぅ」  ヒカリは手から力を抜いて咽ぶ。震える自らの両手を見つめたあと、怯えたように男を見た。ゆっくりと目を開いた男は、手を伸ばして戦慄く指先を握った。そこに力が込められた瞬間、堰を切ったようにヒカリは声を上げて泣き出した。穏やかに自分を見つめる男に覆い被さり縋った。  殺したい程に憎かった。だけどそれを赦してしまいそうになるくらい、男を好きだと思った。 「ヒカリ」  泣きじゃくるヒカリを、王はきつく抱き締めた。 「私を赦して欲しいとは言わない。どれだけ恨んでも、蔑んでも、呪ってもいい。だけどどうか、生きて欲しい」  真摯な願いを告げたあと、王は絞り出すような声で「愛している」と囁いた。  ヒカリは涙が止まらなかった。「自分も愛している」という言葉が、何度も口から衝いて出そうになるのを必死で耐えていた。
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