第5話

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第5話

 翌朝目覚めると、既に王の姿は見当たらなかった。一晩中泣いていた為、腫れた目元を見つけたハーシウは、一瞬驚いたような表情を見せたが、特に何も言わなかった。いつものように朝食に果物を勧められた。これまでなら断るそれに手を伸ばした時は、虚を衝かれたような顔をしてヒカリを凝視したあと、微かに笑って軽く頷いた。年相応の皺が刻まれたハーシウの優しげな眼差しは、少しだけ亡くなった父を彷彿させた。  その日、普段と違ったのはヒカリの態度だけではなかった。昼を過ぎた頃から、部屋に閉じこもっているヒカリもそうと感じる程、宮殿内がざわついていた。  その理由がわからぬまま夜を迎えた。  夜が深まるとハーシウが部屋を出て行き、それと入れ違いに王が入ってきた。昨夜のことがあり、どんな顔で出迎えればいいのか今日一日悩んでいたヒカリだったが、張り詰めたような表情に、そんなことは吹き飛んでしまった。
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