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「このままこの建物の裏手を回っていくと、塀がある。それに沿って南の方角へ行け」
王はヒカリに脱出の手順を説明した。
「生活のことなら心配しなくていい。ヒカリが心置きなく学校へ通えるよう、手配は済んでいる」
その言葉にヒカリは、驚きと困惑が入り混じった顔で男を見た。
「せめてこれくらいはさせてくれ」
悲しそうに笑う男に、ヒカリは何も言えなくなった。
「一緒に行ってやれなくてすまない」
そこまで言うと、王はじっとヒカリを見つめたのち、苦しそうな表情を浮かべてヒカリを掻き抱いた。ヒカリは決してその背に腕を回さなかったが、目を閉じ、その力強さを感じていた。
「さあ、見つからないうちに行け。どうか達者で……」
ヒカリから体を離した王は、想いを振り切るように踵を返し、歩いてきた道を足早に戻っていった。
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