151人が本棚に入れています
本棚に追加
/95ページ
ヒカリはその背を見えなくなるまで見送った。
この国を統べる完全無欠の存在。何万の家来と、何千万の民が忠誠を誓う。でもいったい、その中の誰が彼を幸せにするのだろう。一人きりでは、絶対に自らの幸福など求めない男なのに。王は一生、孤独のままなのだろうか。
『私は一生、心から人を愛することなどないと思っていた。それなのにヒカリを見つめているだけで、己の内から愛しさが溢れて止まらないのだ』
不意に絞り出すような男の声がよみがえり、ヒカリの胸は締め付けられる。
もしも、自分が傍にいられたなら、王は幸せになれるのだろうか?
有り得ない想像が浮かんで、ヒカリは自分の腕にきつく爪を立てた。あの男の幸せを望むなんてことがあってはいけない。王はヒカリにとって、赦してはいけない仇なのだ。
言い聞かせるように自らを叱りつけ、ヒカリはようやく歩き始めた。進めば進む程、胸の奥がじくじくと疼く。唇を噛み締めてそれに耐えながら、言われた通りの道を歩いた。
最初のコメントを投稿しよう!