第5話

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「……っ!」  ヒカリは咄嗟に地面に倒れこみ、剣は空を切った。死にたくない。ここで死ぬ訳にはいかなかった。  ヒカリの父を死に至らしめたのは王ではなかった。それなのにヒカリは散々ひどい言葉を王へと投げ付けた。けれど王は一言も言い訳をしなかった。非難も、怒りも憎しみもすべて受け止め、その上でヒカリを愛していると言った。  胸が痛くてちぎれそうだった。知らなかったとはいえ、これ以上はないくらいに傷付けてしまった自分をヒカリは悔やんだ。どうしても謝りたい。あの時言えなかった言葉を伝えたかった。  死に物狂いで逃げ惑うヒカリを、加勢に加わった兵士がいとも簡単に追い詰める。 「ちょこまかと小賢しい奴め」  今度こそ駄目かもしれない。再度振り上げられた剣に、咄嗟に目を閉じた時だった。 「ヒカリっ」  ヒカリはそれを幻聴だと思った。けれどヒカリを取り囲む兵士たちが、一斉に同じ方向を振り向く。ヒカリもゆっくりと顔を向けた。 男は、王の衣を靡かせ、ヒカリのもとへと駆けてくる。
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