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「しかしいざ部屋へ向かっても姿が見当たらず宮殿中を捜索していた。まさか今夜行動に出ようとしていたとは……予想外だった」
王は悔しそうに眉根を寄せた。
「ヒカリを巻き込まぬように逃がしたのに、それが裏目に出てしまった。……間に合ってよかった」
心底ほっとしたような顔で王が微笑む。本当に自分を心配してくれたのが伝わって、ヒカリの胸は余計に痛んだ。真実を知らなかったとはいえ、ヒカリは散々にひどい言葉を投げ付けた。それでも王の態度はずっと変わらないままだった。
「バドル、……あ、バドルじゃないんだよね。なんて呼んだらいい?」
ヒカリは困ったように訊ねた。今更だったが、王の名前を呼び捨てでは気安過ぎるし、逆に『陛下』では堅苦しすぎる気がした。
「バドルでよい。これはヒカリしか知らない私の名だ」
嬉しそうに笑うバドルに、ヒカリの心臓がどきりと高鳴った。
「じゃあ、……バドル」
「なんだ?」
答えながらバドルは、ヒカリの髪や肌についた土を手のひらで拭っている。
「ごめんなさい、俺……何も知らなくて、ひどいことをたくさん言った」
「よいのだ。ヒカリが気にすることは何もない」
ヒカリを安心させるように柔らかく微笑む顔に、胸を締め付けられる。
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