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「……俺は、物なんか盗らない」
目的はただ一つ。それ以外は何もいらない。握った拳にぎゅっと力を入れて、ヒカリは男を見つめた。
「俺は……俺が欲しいのは、王の命だ」
バドルが小さく息を呑んだのがヒカリにもわかった。無謀だと馬鹿にするだろうか。大それたことを口にする自分を愚かだと嘲笑うだろうか。その瞳を見つめたまま、ヒカリはバドルの反応を待った。
「やめておけ。それは不可能だ」
しばらくの沈黙のあと、バドルはそう答えた。
「あの場所は中心部に行けば行く程守りが堅い。先程お前が居た場所とは比べものにならない」
笑ってもからかってもいない。その表情は真剣だった。
「王宮に侵入しただけでも大罪なのに、その目的が知れてみろ。間違いなく死罪だ」
そんなことはわかっている。それでも自分にはそうするしかないのだ。
「無力な子供がそんな短剣一つで何ができる」
バドルはヒカリが腰に下げた短剣に視線を落とした。厳しい言葉にヒカリは血が滲む程に唇を噛み締めた。今度は『子供ではない』と言えなかった。本当は自分が、無力なことを知っている。まだ十九で、法の上でも子供だ。
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