第6話

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  ◆  ◆  ◆  ◆  王の兄であるシャラフが囚われの身となり、その罪が明るみになると、予想通り民衆の間には動揺が走った。しかし、同時に国民に向けて伝えられた王の誠実な言葉に、国中が心を打たれ、王家への批判はごく僅かなものとなった。  再び大学へ通い始めたヒカリは、今もまだ父と暮らしていた自宅から通学をしている。宮殿に住まわせるつもりでいたバドルは、それに対して随分と不満を漏らしたが、ヒカリの一言でたちまち大人しくなった。 「必死に勉強して、将来バドルの役に立てるような、胸を張ってずっと傍にいられる人間になるよう努力するから、少しだけ待っていて欲しい」  ヒカリが決意を込めてそう伝えると、バドルは複雑な顔をして「ヒカリはずるい」と呟いた。 「ヒカリが大学を卒業したら、いつか日本へ行くか」  二人きりの王の自室。バドルはとびきり嬉しそうな顔で提案した。ヒカリはこれ以上ない笑顔で頷く。 「雪と桜どちらを見ようか」  そんなバドルの言葉に、ヒカリはしばらくの間本気で悩んでいた。 「雪は見たいけど、バドルがあんなに褒めていた景色だから、桜も見たい」  ヒカリの回答にバドルは目を細める。  いつかバドルが話したことがある。ヒカリが笑ってくれるのが嬉しいと。まっすぐに前を向いた瞳で、未来の話をする顔を見つめていると堪らなく幸せだと。ヒカリこそ、その言葉に泣きたい程の幸福を感じた。 「両方見ることにしようか。日程的に一度に見ることは無理でも、何度でも訪れる機会を作ればいい」  二人で過ごせる時間は、この先もたくさんある。  未来は光に満ちていた。
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