4.恋?それとも

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4.恋?それとも

このまま気づかない振りをして、 川瀬にキスをされ続けるか? でもこれ以上キスされたら、 きっと僕は川瀬を好きになってしまう。 そして川瀬を恨んでしまうだろう。 どうしてこんな気持ちにさせた?って。 川瀬の家を出て数分のところにある自宅に 帰り、食事を作る母の顔をまともに見る こともできず、そのままシャワーを浴びた。 親友とのキスという秘密は誰にも言えない。 「葵、ごはんは?」 濡れた髪を拭きながら息を吐いたら、 涙が出た。 「後でいい、ちょっと寝る」 震える声でそう答え、二階へ上がった。 そのまま眠れたら、どんなに楽だろうか。 川瀬のキスが忘れられなかった。 あんな情熱的なキス、反則だと思った。 翌日は、金曜日。 美化委員会の集まりが放課後にあり、 川瀬とは別行動になるかと思っていたが、 昇降口の柱のところに川瀬が立っていたのを 見て、僕は迷わず掴みかかった。 「川瀬!」 「な、何だよ‥‥一緒に帰ろうと思って 待っててやったのに」 「話がある。うちに来いよ」 「あ、ああ‥‥」 僕の迫力に圧倒され川瀬は目を白黒させた。 マジで今日、ケリをつける。 眠れないのは勘弁だ。 鼻息荒く川瀬の前を歩き、校門を出た。 「あら、川瀬くん。ごはん食べてく?」 「こんにちは。お構いなく。お邪魔します」 自宅に着くと、 母が僕の大好きなアジフライを揚げていた。 昨日夕飯を食べ損ねた息子のために サービスしたのかも知れないが、 話の展開によってはまた食べられないかも。 川瀬にちゃんと話してもらわなきゃと、 大きく息を吐いた。 部屋に入り、ドアの内側から鍵をかけた。 「ふ。用意周到だな。一緒にするか?」 部屋の奥に立った川瀬が、笑顔を見せた。 「違うし」 川瀬を睨みつけ、カバンを床に下ろした。 「座りなよ、話がある」 「わかった。そんな怖い顔すんなよ」 川瀬もカバンを下ろし、ラグに座り込んだ。 「で、話って?」 「川瀬は、神代さんと付き合ってるよね」 一瞬の間があって、川瀬が首を傾げた。 「いや?付き合ってないけど」 「はあっ?!嘘つくなよ」 「確かに告白されたけど。それは言ったよな ‥‥で、仲良くはしてる。でも、付き合っては ないよ。え?今更?」 「んー、あ、あと、一昨日。何で放課後、 1人でいたって神代さんに嘘ついたの」 「深い意味はないよ。彼女に会わない? って言われてて、断ってたからかな」 「なるほど‥‥じゃあ、僕にキスした 理由は何?」 「キス?」 「そうだよ、お前んちで2回に渡って!」 「理由かあ」 「誤魔化すなよ、おかげで眠れなくなった」 「あはは、いつも眠い岸野がねえ」 「だから、誤魔化すなって」 「好きだからに決まってるじゃん」 「!」 そう言って微笑む川瀬の表情が とても優しくて、二の句が告げなくなった。 川瀬の手が伸び、僕の頬を撫でる。 「起きてたんだ‥‥そうか」 「な、何してん、のっ、触るなよ!」 それでも、微笑む川瀬から目が離せない。 「ずっと‥‥好きだった。岸野のこと」 川瀬の顔が近づいてきた。 「岸野は?キスを受け入れたってことは、 俺のこと嫌いじゃないよね?」 僕の頬を撫でる川瀬の指先が、 僕の唇にかかる。 「お前、犬歯が大きいんだな。こうやって キスするまで気づかなかった」 「や、止めろって‥‥」 「俺にキスされたのに、家に呼んじゃダメ だろ?またキスされちゃうよ?大丈夫か?」 川瀬の息がかかり、切なさで打ち震えた。 「岸野、俺と付き合って」 「や‥‥っ」 言いかけた言葉は、最後まで言えなかった。 川瀬にキスで唇を深く塞がれたから。 ああ、もうどうでもいい。 この気持ちが恋かなんて、知らない。 でもきっと、川瀬なら後悔しない。 川瀬の背中に腕を回し、キスを受け入れた。
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