3.再びのキスに

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3.再びのキスに

川瀬の中でいったい何が起きているのか。 親友で彼女持ちのイケメン男子として ちょっとだけ誇りに思っていたのに、 僕に言わない秘密を川瀬は持っている。 そう思うと、何故か胸が締め付けられた。 授業が始まっても、川瀬の言葉が耳に残り、 離れずにいた。 放課後、佐橋の家に行くと言ったが、 川瀬のことでモヤモヤして 遊びに集中できないかも知れない。 どうしようかな‥‥。 息を吐き、ノートにシャーペンで ぐるぐると黒丸を描いて気を紛らわせた。 その時、不意に肩を叩かれた。 振り返ると後ろの席の吉川が 『岸野へ』というメモを渡してきた。 開くと、見慣れた川瀬の字が並んでいた。 『今日は佐橋んちか?明日、また来て』 そっと川瀬の方を向くと、 川瀬は僕をまっすぐ見つめ、小さく頷いた。 果たして、うまく立ち回れるんだろうか。 不安しかなかった。 佐橋の家に来たのは初めてで、 てっきりゲームでもするのかと思ったら、 真面目に宿題を済ませるだけだった。 ただ、秋津が気になることを口にした。 「川瀬、キス経験者かなぁ?」 「してんじゃん?なあ、岸野」 佐橋に笑いかけられ、ぎこちなく微笑んだ。 「どうなんだろうね」 今までなら、しててもおかしくないと 普通に言えたが、まさか自分と経験済とは 言えなかった。 「あーいいなあ、俺も早く経験したい」 「ねー」 佐橋と秋津が笑い合う横で、 僕は深く考え込んでしまっていた。 そう、川瀬にはする相手がいるんだ。 それなのに、何故僕に? 結局、そこに考えが戻ってしまう。 やっぱり明日、確かめようと思った。 翌日の放課後、川瀬の部屋で。 また僕は頃合を見計らって、 眠いと嘘をつき川瀬のベッドに横になった。 しばらく寝た振りをして、 何もなければ一昨日のことは忘れよう。 そう思っていたのに。 川瀬は僕が目を閉じ、眠りについたことを 確認すると(実際には眠ってないのだが)、 再びキスをしてきたのだ。 しばらく川瀬にされるがままにしていたが、 さすがに目覚めなきゃ不自然だと思った。 でも目を開けるタイミングを完全に逃し、 僕は目を開けることができなかった。 一度のことなら気まぐれだ、いたずらだと 割り切れたが‥‥完全に理由があるはずだ。 唇が離れ、僕の唇を指先で拭いながら、 川瀬が言った。 「岸野、俺」 目を閉じ、川瀬の次の言葉を待ったが、 焦ったくなるくらいの時間が過ぎても、 川瀬はその後の言葉を口にしなかった。 仕方なく、僕は目覚めた振りをした。 「んー‥‥、よく寝た‥‥あれ、川瀬。 どうしたの」 とてもわざとらしい演技をしたつもりで いたが、川瀬は僕に小さく微笑んでから 首を振った。 「何でもない」 川瀬の心の闇は深いと思った。
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