Part 2

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Part 2

「大丈夫! 機器に異常はないよ。雨も問題なく降り注いでいるしね」 「あの光は、微惑星の衝突などではないのね。表面温度は下がり続けているの?」 「ああ、順調だよ。あと1000年も雨が降りやまなければ、この惑星は水でおおわれ、生命が誕生する可能性も出てくる。必要なデータの収集は完了した」 「じゃあ、定期観測も終わりね。そろそろ、本部から帰還命令が出る頃かしら?」  十分なデータが集まったと判断されれば、わたしたちは戻らねばならない。  彼とこうして過ごす時間も、残りわずかとなった。  わたしはあえて、彼から妄想の続きを聞きだしてみる。 「滴からできた島に初めて降り立つのは、もちろん男神と女神よね?」 「たぶんね」 「そして、二人は、そこで結ばれる……」 「そうなるだろうね。でも、それはぼくらじゃないよ……」  そう――。彼が言うとおり――。  わたしたちの任務は、灼熱の惑星が雨によって冷やされ、原始の海が無事に形成されるのを観測すること――。  この宇宙に、生命を育む可能性を秘めた惑星が、新たに生まれつつあることを本部へ報告すること――。  準備が整った惑星に、最初の命のもとを届けるのはわたしたちの仕事じゃない。  *  ほどなく本部から帰還命令が届いて、わたしたちは、この惑星を離れることになった。  さようなら、惑星の赤ちゃん……。  どうか、あなたが十分冷えるまで、雨が降り続けてくれますように!  わたしは、祈りを込めて大きな窓――モニターの画像を消した。 「さあ、ぼくたちもしばらく休もう」 「そうね」  わたしたちは、奥の部屋に移動し、そこに並べられたメンテナンスカプセルの扉をそれぞれ開けた。  扉を閉める前に、わたしは彼に声をかけた。 「ねぇ、また会えるかしら、わたしたち?」 「会えるさ。どこか雨の降る場所でね。そのときも、二人で雨の話をしよう!」 「フフフ……、なにか新しい話を調べておくわ」 「頼んだよ、雨女さん!」 「任せておいて、雨男さん!」  わたしたちは、それぞれのカプセルの扉を閉めた。  なめらかな金属製の体を、何かが這い回る感触――。  早くもメンテナンスが始まったらしい。  唯一活動が許されている脳をつかって、今回の任務を振り返る。  窓枠にかけたわたしの手に、彼が自分の手を重ねたのはなぜだろう?  あのときは、これまで感知したことがない、不可思議な温かみを感じた――。  今度会ったとき、彼に理由を聞いてみなければ――。  「今度」がいつなのか、「今度」があるのかも、わからないけれど――。    しばらくして、脳のメンテナンスも始まった。  わたしの脳は、ゆっくりと「眠り」に落ちていく――。  ネェ マタ アエルカシラ ワタシタチ ?  アエルサ ドコカ アメノフルバショデネ。  アイタイノ アナタニ……。マタ イツカ…… マタ ドコカデ……。  アメハ フリツヅケテイテ カマワナイカラ……。
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