二者

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メールは、未来と一緒に観光協会の仕事をすることになった優子(ゆうこ)との、ふたり宛てになっていた。 観光協会の橋本からの、メンバーも揃い懇親会をすることになったので、良かったら参加しないか?といった内容のメールを転送したものだった。 1年近く仕事をするメンバーと親睦を深めることが出来たら、今後の仕事はやりやすくなると思うと、 すぐにでも参加すると返信したいのに、キーボードの上で、手は彷徨う。 「やっぱり、少しやりにくいかも。」 青島の顔を思い浮かべて、未来はため息をついた。 青島と会うのは週末にと、まるで決まり事のようにしているのには、それなりの理由があった。 はじめは、青島の負担になってはいけないとの思いが強かったのだが、フリーで仕事をする未来自身にとっても、その方がいいと思った。 そして、もうひとつ。 以前なら全く気にならなかった、青島の接待で行く夜の付き合いを、知らないで済むなら、その方が気が楽だと思ったからだ。 青島にとっては仕事以上でも仕事以下でもない。 未来だって頭では理解しているし、青島のことを信じる気持ちは確かなのに、それでも沈む気持ちは、どうしようもない。 そして、そんな時には、創太のことを思い出したりして、また自己嫌悪に陥る。 不器用で、仕事と称して行く、そんな場を毛嫌いしていたあの人に、いっそ楽しめばいいのにと言っていたのに、実際には、そんな創太に満足していたんだなと思い知る。 それなのに、その元恋人と、仕事をしている自分は、青島を責める資格などない。 仕事だから割り切ろうとすること自体が、何かしら思う事があっての事だし、どんなに考えても正しい答えは出ない。 未来は、ほとんど勢い任せに『送信』をクリックすると、事務所の外に出て深呼吸をした。 「未来っ。」 そこに立っていたのは、驚いた顔をした親友の綾香(あやか)だった。 「どうしたのよ?こんなとこでラジオ体操でも始めるのかと思ったよ。」 「ちょっと気分転換。綾香、今日は休みなの?」 「うん。ちょうど良かったよ。王くんの送別会どうしようかって話してたとこだったの。王くんは特に予定ないから、いつでもいいって言ってた。」 「そう。私は土曜日とかの方がいいんだけど、それだと綾香が難しいよね?」 すると綾香は、フフンと得意気に笑った。 「私以外は週末が良いだろうなと思って、今回のシフトは調整してもらったんだ。今週と来週の土曜日なら大丈夫だよ。」 「そっか。じゃあ来週にしようか?今週は懇親会に参加するって、さっき返事しちゃったし。」 「了解。慎くんと王くんには伝えとく。未来も社長様に連絡しといてね。懇親会で会うんでしょ?」 「ううん。懇親会は観光協会の人たちとだから。」 未来がそう言った途端、綾香の顔色が変わった。
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