5人が本棚に入れています
本棚に追加
メールは、未来と一緒に観光協会の仕事をすることになった優子との、ふたり宛てになっていた。
観光協会の橋本からの、メンバーも揃い懇親会をすることになったので、良かったら参加しないか?といった内容のメールを転送したものだった。
1年近く仕事をするメンバーと親睦を深めることが出来たら、今後の仕事はやりやすくなると思うと、
すぐにでも参加すると返信したいのに、キーボードの上で、手は彷徨う。
「やっぱり、少しやりにくいかも。」
青島の顔を思い浮かべて、未来はため息をついた。
青島と会うのは週末にと、まるで決まり事のようにしているのには、それなりの理由があった。
はじめは、青島の負担になってはいけないとの思いが強かったのだが、フリーで仕事をする未来自身にとっても、その方がいいと思った。
そして、もうひとつ。
以前なら全く気にならなかった、青島の接待で行く夜の付き合いを、知らないで済むなら、その方が気が楽だと思ったからだ。
青島にとっては仕事以上でも仕事以下でもない。
未来だって頭では理解しているし、青島のことを信じる気持ちは確かなのに、それでも沈む気持ちは、どうしようもない。
そして、そんな時には、創太のことを思い出したりして、また自己嫌悪に陥る。
不器用で、仕事と称して行く、そんな場を毛嫌いしていたあの人に、いっそ楽しめばいいのにと言っていたのに、実際には、そんな創太に満足していたんだなと思い知る。
それなのに、その元恋人と、仕事をしている自分は、青島を責める資格などない。
仕事だから割り切ろうとすること自体が、何かしら思う事があっての事だし、どんなに考えても正しい答えは出ない。
未来は、ほとんど勢い任せに『送信』をクリックすると、事務所の外に出て深呼吸をした。
「未来っ。」
そこに立っていたのは、驚いた顔をした親友の綾香だった。
「どうしたのよ?こんなとこでラジオ体操でも始めるのかと思ったよ。」
「ちょっと気分転換。綾香、今日は休みなの?」
「うん。ちょうど良かったよ。王くんの送別会どうしようかって話してたとこだったの。王くんは特に予定ないから、いつでもいいって言ってた。」
「そう。私は土曜日とかの方がいいんだけど、それだと綾香が難しいよね?」
すると綾香は、フフンと得意気に笑った。
「私以外は週末が良いだろうなと思って、今回のシフトは調整してもらったんだ。今週と来週の土曜日なら大丈夫だよ。」
「そっか。じゃあ来週にしようか?今週は懇親会に参加するって、さっき返事しちゃったし。」
「了解。慎くんと王くんには伝えとく。未来も社長様に連絡しといてね。懇親会で会うんでしょ?」
「ううん。懇親会は観光協会の人たちとだから。」
未来がそう言った途端、綾香の顔色が変わった。
最初のコメントを投稿しよう!