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「まさか道田くんも一緒?」
「たぶん。道田さんからメール来てたから。」
「メールのやり取りなんてしてるの?」
「仕事だよ。プライベートでやり取りしてるわけじゃない。」
はああ、と綾香は盛大なため息をしてから、キッと未来を睨みつけた。
「私が未来の彼氏なら、絶対に嫌だ。」
気持ちを切り替えようと外に出たのに、綾香にはっきり言われてしまい、その言葉が胸に突き刺さる。
「私だってわかってる。でも仕事なの。」
ふたりは睨み合い、お互いに次の言葉を待っていたが、先に未来の方が目を逸らして言った。
「ごめん。仕事あるから行くね。」
未来は事務所に戻り、少しして綾香が2階に上がる足音を聞いた。
「私だってわかってるよ。」
未来はもう一度呟くと、パソコンに向かった。
これ以上は何も考えないように、と言い聞かせて仕事をしているうちに、就業時間はとうに過ぎていたようで、携帯から短い着信音が聞こえて、ようやく力が抜けた。
『送別会は来週の土曜日で決まりです。』
綾香からの素っ気ないメッセージに、わかりました、とだけ返してから携帯を置いた。
今日はまだ、青島への『報告』が残っている。
未来は報告されるのを避けるタイプだったが、青島は報告がないと、余計に不機嫌になるタイプだった。
電話をするには、まだ早い。
けれど食事をする気にはなれなくて、とりあえずシャワーを浴びてから、台所に立った。
当たり前のことをしないと、自分が間違っていると認めているようで、更に落ち込みそうだった。
そして、いよいよすることがなくなり、時計を見ながら、この針が12を指したらと思いながらも、幾度となくそれを見送って、やっとの思いで携帯を手に取った。
「もしもし。」
いつもと変わらない低く優しい声で、青島は電話に出た。
「ご飯は食べました?」
「ああ。そっちは?」
「食べました。あとは寝るだけです。」
「そうか。」
「水曜日…」
未来は唐突に話を切り出した。
「水曜日の夜に、懇親会に行くことになって、その日は家にいないから、とりあえず連絡しておこうと思って。」
「懇親会?」
せっかく電話をしたというのに、肝心なことが抜けてしまい、未来は、できる限り平静を保つように気持ちを落ち着かせながら、話を続けた。
「観光協会の懇親会に、誘われたんです。」
電話の向こうで、青島が息を呑む気配がした。
「場所はどこだ?終わる頃に迎えに行く。」
有無を言わさない厳しい声だった。
「観光協会近くのお店ですけど、大丈夫です。
自分で帰れます。」
しかし青島は譲らなかった。
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