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「約束したろ?懇親会でも何でも行ってもいいが、
俺が迎えに行くって。あとで場所と時間を連絡しろ。」
そう言って、電話を切った青島は、そのままソファに沈み込んだ。
本当なら、今すぐにでも会いに行きたい気分だった。
家に着く前に電話を貰っていたら、迷わず未来の家に向かっただろう。
「こんな時間に電話してきやがって。」
携帯を睨みながら悪態をつく。
いつ頃からだろうか、会社を出てどこに帰ろうか迷うようになったのは。
今となっては、自分の部屋へ帰ると決まっている日でさえ、自問するのが日課になっていた。
現に、この瞬間でさえ、隣にいてくれたらと胸が締めつけられる思いだ。
「限界だ。」
青島は住み慣れた部屋を見渡し、何かを決意したように立ち上がった。
水曜日になり、懇親会の前に打ち合わせをしたいと言うので、未来は観光協会に来ていた。
会議室に入ると、事務の久美子が創太と一緒にテーブルの片付けをしている。
「こんにちは。」
未来が声を掛けると、久美子が慌てた様子で返事をした。
「お疲れ様です。すみません。さっきまで作業してて、すく片付けますね。」
「大丈夫です。こちらこそ早く着いちゃってごめんなさい。」
するとコーヒーを片手に持って立っている未来を見て、創太が言った。
「中西さん。俺、アイスコーヒーのブラック。この間の借りね。佐藤さんもいる?」
創太は手を休めることなく言った。
「いえ、私はさっき飲んだから大丈夫です。」
久美子が言うと、未来は荷物を置いて、バッグから財布を取り出した。
「道田さんの分、買ってきますね。」
そうして未来がアイスコーヒーを手に戻ってくると、既に久美子は事務所に戻ってきていて、会議室には創太と橋本が座っていた。
「どうぞ。橋本さんもコーヒー飲みますか?」
創太の前にアイスコーヒーを置きながら、未来は橋本に尋ねた。
「いや、僕はもう、懇親会のビールまでは何もいりません。」
余程楽しみなのか、橋本は嬉しそうに言った。
「ビールがお好きなんですか?」
そう聞かれた橋本は、はい、と威勢よく答えた。
すると小走りに近いような足音が近づいてきて、デザイン担当の優子の元気な声が響き渡った。
「こんにちは。失礼しますっ。」
もう恒例とも言える賑やかな登場に、皆、笑いながら挨拶を返した。
「揃ったところで、早速始めましょうか。先日、年間スケジュールが決まったので、共有しておこうと思いまして、お集まり頂きました。まだ案の段階の物もあるんですが、とりあえず一覧にしたのでお配りします。」
橋本から手渡された資料を見て、優子が驚きの声を上げた。
「こんなに?」
未来もつられて橋本の顔を見たが、その表情は特に変わらなかった。
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