3人が本棚に入れています
本棚に追加
「未早矢さんと申すのですか。いい名前をお付けになられた。実に大和撫子らしい」
「は、はい…… 父には感謝しております」
名前を褒められたことで未早矢は笑顔を見せた。その笑顔を見て美琴も微笑みながら笑い声を上げることで、笑い声が辺りに響き渡る。場はこれで和んだと美琴は安堵の笑みを浮かべた。
しかし、徳道は和んだ場をブチ壊しにかかる。本人は無自覚で悪気は一切ない。
「弓道の稽古をしている時、一本目の矢を射る前に、これ(こいつ)が産まれたって知らされたから適当につけた名前でして。深くは考えずにつけた名前であるぞ」
早矢とは、弓道において二本持って射るうちの初めに射る一本目の矢のことである。徳道はその矢を射る直前に「お生まれになりました! 女子で御座います!」と使用人から報告を受けたことで、深く考えることなく「名前は未早矢でいいか」としたことでつけられた名前である。
もし仮に「お生まれになりました! 男子で御座います!」と報告であったならば、徳道は弓を放り投げて妻の元へ駆けつけた上で、名前も一所懸命に考えていただろう。
残酷なようだが、徳道にとっては「どうでも良い」ことであった。
正直な話、今回の見合いは「さっさと娘を嫁に出したい」ことと「侯爵家と親戚関係になり家格を上げたい」と言う徳道の腹心算が「早く跡継ぎが欲しい」と言う鷹麿の腹心算と一致しただけの、政略結婚のキッカケに過ぎないのである。
とは言え、まずはお互いに話をしなくてはいけない。もう既に数回お見合いを経験している鷹麿は慣れたもので、会話の口火を切った。
「あの、未早矢さんのご趣味の方は?」
大体、こういった質問の答えは決まっている。大体が「華道(お花)」「箏曲(お琴)」「茶道(お茶)」で嫋やかなお嬢様であることをアピールしてくる女性は多い。
時折は西洋に被れて「乗馬」「孔球(ゴルフ)」「庭球(テニス)」などもいいアピール材料にしてくる女性も増えている。
美琴は未早矢もこの手合の女性であると考えていた。
最初のコメントを投稿しよう!