第一章 モガとモボの奇妙な邂逅

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「未早矢さんと申すのですか。いい名前をお付けになられた。実に大和撫子らしい」 「は、はい…… 父には感謝しております」 名前を褒められたことで未早矢は笑顔を見せた。その笑顔を見て美琴も微笑みながら笑い声を上げることで、笑い声が辺りに響き渡る。場はこれで和んだと美琴は安堵の笑みを浮かべた。 しかし、徳道は和んだ場をブチ壊しにかかる。本人は無自覚で悪気は一切ない。 「弓道の稽古をしている時、一本目の矢を射る前に、これ(こいつ)が産まれたって知らされたから適当につけた名前でして。深くは考えずにつけた名前であるぞ」  早矢とは、弓道において二本持って()るうちの初めに()る一本目の矢のことである。徳道はその矢を()る直前に「お生まれになりました! 女子(おなご)で御座います!」と使用人から報告を受けたことで、深く考えることなく「名前は未早矢でいいか」としたことでつけられた名前である。  もし仮に「お生まれになりました! 男子(おのこ)で御座います!」と報告であったならば、徳道は弓を放り投げて妻の元へ駆けつけた上で、名前も一所懸命に考えていただろう。 残酷なようだが、徳道にとっては「どうでも良い」ことであった。  正直な話、今回の見合いは「さっさと娘を嫁に出したい」ことと「侯爵家と親戚関係になり家格を上げたい」と言う徳道の腹心算(はらづもり)が「早く跡継ぎが欲しい」と言う鷹麿の腹心算(はらづもり)と一致しただけの、政略結婚のキッカケに過ぎないのである。 とは言え、まずはお互いに話をしなくてはいけない。もう既に数回お見合いを経験している鷹麿は慣れたもので、会話の口火を切った。 「あの、未早矢さんのご趣味の方は?」 大体、こういった質問の答えは決まっている。大体が「華道(お花)」「箏曲(お琴)」「茶道(お茶)」で嫋やかなお嬢様であることをアピールしてくる女性は多い。 時折は西洋に被れて「乗馬」「孔球(ゴルフ)」「庭球(テニス)」などもいいアピール材料にしてくる女性も増えている。 美琴は未早矢もこの手合の女性であると考えていた。
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