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しかし、未早矢はこれまでの手合とは違っていた。
「柔道、剣道を少々。最近は琉球より伝わった空手も……」
すると、徳道は応接間全体に響くような豪放磊落たる笑いを上げた。
「そうなんですよ! この未早矢は全く以て女らしい趣味に興味を持たぬ! 昔から兄にに混じって柔道、剣道を嗜む男勝りな娘! 柔道は自分の倍を大きさの男を軽く投げ捨てる程! 剣道に至っては示現流の目録! 近頃ではそれでも物足りぬと空手を学び、自分より体の大きな男子を正拳突きで道場の壁を破り突き飛ばしおる! 困ったものだ! ガハハハ!」
武家の家に産まれた娘は男尊女卑の思想を植え付けられ、男に対しては貞淑に努めるものになると聞くが、このような娘もいるのかと鷹麿は驚きを覚えていた。
雲雀子は「面白い娘さんもいたものねぇ、友達になりたいわ」と言いたげな笑顔を浮かべた。
美琴は柔道も剣道も鷹麿に「やらされていた」のだが、体格に恵まれなかったことと、持ち前の運動神経のなさで挫折してしまっていた。それだけに、柔道も剣道も達人だと言う未早矢に憧憬の念を抱くのであった。それ故に褒めてしまう。
「おれも柔道と剣道はやっていました。ですが、体格に恵まれず才がなく投げられ叩きのめされの毎日で挫折しております。だから未早矢さんは凄いなと純粋に尊敬してしまいました」
徳道はそれを聞いて一瞬渋い顔をするも、またもや豪放磊落な笑い声を上げた。
「いやいや、褒めなくてもよろしい。男ならまだしも、女がこんなものを出来とうて趣味みたいなもの! 意味などありませぬ!」
美琴はここで咎めるべきだと考えた。しかし、この手の相手に説いたところで通用する相手ではない。口を貝のように硬く閉じるのであった。
未早矢は僅かに悔しそうな表情を浮かべ、口を閉じた。それから、徐に口を開いた。
「あの、鷹小路美琴様はどのようなご趣味をお持ちでしょうか。柔道も剣道もお辞めになられていたと伺ったのですが、それから後に何かを始めたようなことは」
困った。美琴には特にこれと言った「男がするような猛々しい趣味」はない。かと言って「女がするような嫋やかなる趣味」もない。本当の趣味はモガやハイカラな格好をして街中を散策することだが、とてもではないが言うことが出来ない。料理や編み物や裁縫が得意であるが、このような場で言える趣味ではない。
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