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暫しの沈黙で場が止まった。どうしようどうしようと考える美琴の顔を未早矢はじっと見つめていた。穴が空くほどに注視をするが、その目線に気が付かない程に美琴の頭の中では「趣味をどう答えたらいいのだろう」と言う言葉が巡り回っているのであった。
すると、未早矢が「何か」に気がついたのか美琴を指差して驚いたような顔をした。
「ああーっ! あの時の! まさかこんなところで会えるなんて!」
その瞬間、徳道が修羅の形相で未早矢を睨み付けた。
「こら? いきなり人を指差した上に大声で叫ぶとは失礼な上に端ない。申し訳ありません鷹小路侯爵。躾のなってない姦しい娘で」
美琴は困惑した。未早矢の言うことが本当ならば、おれたちは初対面ではない。だが、おれにはそんな覚えはない。学校は男女別学でそもそも女子と会う機会がない。父にいつも連れて行かれる夜会でもこんな娘と舞踏を踊った覚えはないし、食事の席を共にした覚えもない。
美琴が「多分、未早矢の勘違いだろう」と、考えた瞬間に雲雀子が徳道に提案を行った。
「あの、お見合いはお若いお二人に任せるものと聞いております。ここはどうでしょう、私の愚弟と未早矢さんの二人きりにすると言うのは」
本来ならば「若い二人に任せる」のはもう少し話を重ねた後となる。雲雀子は未早矢の言葉から「あいつが女装してる時に会っているのかもしれない」と予想した。こうなれば、二人きりにして話をさせた方が話は早い。と考えた故にこの提案を行ったのである。
徳道は訝しげな顔を浮かべた。
「まだ、早いのではないだろうか。お互いの家柄や皇族の藩屏たる我々華族の志など語るべきことはあるぞ」
藩屏。天子・皇族を守護する者達のこと、華族はそれを自称していた。
「それは爵位を持ちし者同士で語ることではないでしょうか。私としてはこの八洲の中で最も勇壮なる益荒男様の幕末維新や西南の役での勇猛果敢たるお話を聞きとう御座いますわぁ。父もこのような話を聞くことを楽しみにしておりました」
こうして褒められるのは気分がよいものだ。徳道はスッと立ち上がり、満面の笑みを浮かべた。
「ウム、私の書斎に天子様より恩賜された軍刀が御座います。それを前に我が戦を語ろうではないか!」
「まぁ、我が家にも恩賜の軍刀は御座います。さぞや素晴らしいものでしょう! これは楽しみで御座いますわぁ。さあさ、書斎の方へ」
「おい、未早矢よ。鷹小路美琴殿にこの屋敷自慢の中庭を案内してあげなさい。無礼のないようにな」
こうして、美琴と未早矢は二人きりになるのであった。
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