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すると、未早矢は天を仰ぎ軽い溜息を吐いた。
「動きやすいのは本当だけど、実際は父上に対する反骨心や反抗心が本当のトコかな?」
「逆らうの?」
「武家の問題かな? あたしの家では『男は男らしく』『女は女らしく』育てられるの。でも、あたしは女らしくなれなかっただけの話。友達の女子と飯事やお人形遊びをするよりも、男子とチャンバラごっこや兵隊ごっこをする方が楽しかったし、桃色の小袖よりも青色の袴の方が着たかった…… でも、このことを父上に言えば『女は女らしくしていればいい!』って何時間も説教をされるの。酷い時は天竺鼠のホッペみたいになるまで頬を殴られたこともあった。そういうのに逆らうために男の格好をしてるのかなって」
自分の女装をする理由と違い、未早矢の男装する理由は筋が通っている。美琴はそんな未早矢に憧憬の念を抱いてしまうのであった。
「まぁ、そんな訳だから…… あたしは『女らしく』はなれない女です。これから夫婦になる相手にこれを隠してはおれません。それを正直に話して見合いを断られてきたのです……」
ちなみに未早矢はこれまでの見合いでは、男装趣味の話をするまでもなくお断りの返事をされてしまっている。趣味の話をして実際に柔道や剣道の手合わせをすれば相手の方が瞬殺、女に負けたとあっては男の矜持は粉微塵に崩されたと身勝手に悩んだ末に断りの返事をしてくるのである。一番早い時は体つきから武道の達人であることを見破られての即座に回れ右であった……
女装趣味のある男子と男装趣味のある女子。似たようなものではないか。
人間、自分に無いものを持つ相手に憧憬の念を抱くもの。美琴は未早矢には自分にはないものがあると感じた。
そこからの「決意」は早かった。
「あの! 未早矢さん!」
「え……? なに……?」
「この見合い、お受けします。ただし、おれは『男らしく』はなれない男です。このような情けない男ではありますが、守ってはいただけないでしょうか」
未早矢は武家の生まれで、そこに仕える家臣は皆、一騎当千勇猛果敢たる益荒男である。勿論、山程に見ている。
そんな未早矢からすれば美琴は極めて情けない男。守るべき庇護対象と言っても良い。
「男は男らしく」「女は女らしく」それに反抗する考えを持っている未早矢は「女が男を守るのもいいか」と考え、美琴の手を握るのであった。
「鷹小路美琴様…… お慕い申し上げます」
こうして、お互いの気持ちが一致した。この時点で婚約成立である。
だが、二人が結婚するまでの間に空前絶後の難関が襲いかかることを今は知らない……
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