第一章 モガとモボの奇妙な邂逅

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第一章 モガとモボの奇妙な邂逅

 帝都大東京、浅草。その浅草の町々を行く人々に全員にそれぞれの活動写真(ドラマ)がある。その中でも数奇なる運命を辿った二人が浅草六区の電気館にて邂逅しようとしてた。 電気館。令和(いま)の言葉で呼ぶならば、映画館である。 封切りされたばかりの話題の活動写真(映画)、を鑑賞しに来た一人のモガ(モダンガールの略称のこと)があった。最前列中央の席に座り、今か今と上映を楽しみにしていると、恰幅が良く杖を突いた中年男に声をかけられた。 「おい、そこな娘よ。私は目と耳が遠いのだ、この席を譲ってはくれまいか」 モガは活動写真の大ファン。大スタアの勇姿を最前列で観るために朝一番に家を出て、チケット窓口の一番に並び、一番に劇場内へと入り最前列の席を確保したのだ。  苦労して手に入れた席である。そんな席を後から来て譲れと言われても、そうは問屋が卸さない。モガは首を振りながら拒否を示すのであった。 「嫌です。何故にいきなり来たあなたなぞに席を譲らなければならないのでしょうか」 中年男は舌打ちを放った。それから、懐より財布を出して、更にそこから百圓札を出し、モガに突きつけた。 「分からぬ娘であるな。やはり女は頭の血の巡りが遅い。これをくれてやるから席を譲れというておるのだ」 このモガ、金で動くような軽い心は持っていない。心揺らぐことなく、更に拒否を示した。 「嫌でございます。この席は朝一番で苦労して取った席で御座います」 中年男は先程よりも大きな唾を吐き捨てるような舌打ちを放った。モガの拒否にイライラしているのか、百圓札をクシャクシャに丸めて床にポイと投げ捨ててしまった。 それを見ていたモガの隣に座っていた男が素早く百圓札を拾いにかかるが、中年男は素早くそれを革靴で踏みにじって潰してしまう。 お金に対して何も思わない破廉恥さ。 モガは「こいつは成金だ、面倒くさい奴に絡まれてしまった」と、困ったような顔をするのであった。 成金。大戦景気によって大金持ちになった者のこと。将棋では歩が敵陣地に入ると金「と」になることに例えて「成金」と呼ばれるようになったとされている。 元々は金のなかった者が、急に金を持つようになったために「自分は何でも出来る」と、横柄たる者が多かったとされている。 「全く、女は男の言う事を黙ってハイハイと聞いておればよいのだ! お前のような頭の軽そうなモガではスタアの顔で興奮するしかないであろう。この活動写真は話の佐幕と倒幕の駆け引きと剣戟こそにあるのだ。これを理解できぬモガは失せるがよかろう!」 ここで席を譲っては負けだ。モガは鋭い目つきで成金を睨み付け、動く気はない気概を見せつけるのであった。
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