第二章 初恋の味を知らないモガとモボ

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勧進帳。鎌倉幕府の将軍・源頼朝より朝敵の疑いをかけられ追われる身となった、弟・源義経の逃亡の一幕を描いた演目のことを言う。 逃亡中の義経一行は加賀国(石川県)の安宅の関所で足止めを食ったために、山伏に変装して関所を通り抜ける作戦に打って出ることにした。武蔵坊弁慶を筆頭とした家来は山伏の風体、義経は山伏の荷物運びたる強力(ごうりき)の格好である。強力(ごうりき)は山伏たちの中では一番の格下、主君を格下の強力(ごうりき)にする筈がないと意表を突くつもりだったのだ。 しかし、源頼朝はこの作戦を見破っており、安宅の関所の富樫左衛門に「山伏を捕らえろ」と命令を出していた。当然、富樫左衛門は命令に従い山伏たちの足止めを行った。武蔵坊弁慶は機転を効かせ「消失した東大寺を再建するための勧進を行っている」と嘘八百を述べた。この頃の東大寺は平氏に逆らった罪で大半の伽藍を焼き払われており、再建のための勧進が全国の寺社仏閣に勧められていた。源頼朝も東大寺の再建には積極的に協力しているために勧進を行う山伏一行を止める筈がないと考えての嘘八百である。 富樫左衛門はこれを疑い山伏に「勧進帳」を読ませることにした。当然、目的は勧進の旅ではなく逃亡であるために勧進帳など持っている筈がない。 ここで自分達の目的を知られてはいけないと武蔵坊弁慶は一芝居に打って出た。なんと、勧進なぞ一行も書かれていない適当な巻物を広げて勧進帳の文を暗唱し、読み上げたのである。それは見事なもので、富樫左衛門も本物と思うぐらいであった。 安宅の関所を通り抜けようかと言う時、富樫左衛門の部下の一人が強力の被る編笠の下にある眉目秀麗な顔に既視感を覚え義経ではないかと疑いの目を向けた。義経一行、絶体絶命の危機である。そこで機転を効かせたのは再びの武蔵坊弁慶「お前が逆賊義経に似ておるから悪いのだ!」と金剛杖で源義経を打ち据えるのであった。 主君のために命を捨てられる程の忠臣が主君の命を守るために主君を打ち据える…… 忠臣であれば忠臣である程耐えられない重荷である。富樫左衛門もそれを見破ってはいたのだが、武蔵坊弁慶の源義経に対する忠に心打たれ、安宅の関所を通すのであった…… 武蔵坊弁慶は関所を通り抜けた後、源義経に泣いて謝り侘びを入れるが、むしろその労を労い褒め称えた。 そこに再び富樫左衛門が現れ、疑った侘びの(しるし)として酒を振る舞うと言い出した。武蔵坊弁慶は「酒を飲んでいる間に義経を逃がせ」と言う意図を察し、酒を酌み交わすのであった。 武蔵坊弁慶は延年の舞を踊りながら富樫左衛門に感謝の念を伝え、先に逃していた義経を追いかけたところで、閉幕を迎える。
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